TTT『戸惑いの惑星』 僕じゃないなら誰なんだ
20th Centuryの三人舞台 TWENTIETH TRIANGLE TOUR『戸惑いの惑星』を観劇しました。
ありとあらゆるところに、伏線が散りばめられた緻密なストーリー、このために作ったのかと思うくらい、それぞれの場面にピッタリな曲。ストレートプレイでもミュージカルでもない、まさに台詞劇というべき舞台でした。
※3/11訂正 音楽劇というより、台詞劇でした。
※以下ネタバレ
三池(坂本昌行)・由利(長野博)・長谷川(井ノ原快彦)の、現実と小説、記憶と創作、過去と未来が入り混じったストーリー。
劇中の「現実」と、長谷川が書いた「小説」を、行ったり来たりする構造になってます。また、「現実」と「小説」が入り混じったシーンもあるので、初見では「このシーンは現実?あれ、さっきのシーンは??」と戸惑ってしまいました。
舞台上の流れ
舞台上の流れは、時系列にはなってません。
もちろん、これが正解ではありません。ここでは、この流れで進行するということで、どうぞよろしくお願いします。
便宜上、劇中の現実を「リアル」、長谷川の小説の出来事を「小説」と表してます。
トニセンによる、観劇の注意事項・最近戸惑ったこと
↓
ーーーリアルーーー
<病室>
長谷川が入院しているところに、三池と由利がお見舞いに来る
↓
【過去】<スタジオ33>
メールで呼び出された3人。高校の時以来、久しぶりの再会
♪ Change Your Distiny
↓
<病院>
三池と由利は、長谷川の書いた小説を読む
ーーー小説ーーー
長谷川の身の上話
↓
<公園>
似顔絵を描いてる三池に会う長谷川
↓
<研究室>
由利は三池の絵を調べたいと申し出る。三池は断る
由利と教授の対話
♪ 不惑
ーーーリアルーーー
<病院>
小説を読み始めた時と同じ場所
小説の物語が、リアルで実際に起こったことだと気付く
ーーー小説ーーー
長谷川が手紙代行業始めた
♪ オレじゃなきゃ、キミでなきゃ
↓
<ジャスバー33>
研究室で会った三池と由利が半年ぶりに再会・三池と恋人の話
♪ Sing!
三池と恋人の話続き
彼女が去り、三池の元に送られた手紙をマスター(井ノ原)が読む
↓
研究所にて、由利と教授の話
母から手紙を受け取る
ーーー謎の空間ーーー
<クラブ33>
三池と由利が、小説ではなくリアルであると気付く
↓
3回目にドアを開けると長谷川が出てくる
♪ ちぎれた翼
↓
長谷川の手紙・彼女の手紙を読む
♪ days - tears of the world -
ーーーリアルーーー
<病室>
長谷川が目を覚ます
三池と由利がお見舞いに来る
↓
三池が長谷川の似顔絵を描く
♪ Change Your Distiny(二回目)
ーーーカーテンコールーーー
♪ Dahlia
端折ってるけど、大体こんな流れ。
ただし、小説内の出来事は、リアルと長谷川の創作が入り混じってます。
長谷川の謎
最後、三池は長谷川の似顔絵を描きたいと申し出て、長谷川は快諾します。描いてもらってる最中、長谷川はこう言いました。
「君に描いてもらうのは、初めてじゃない気がする。でもあれは、僕じゃなかったね」
三池に描いてもらうのは、初めてじゃない。でも、長谷川ではない。
じゃあ誰なのかと言えば、彼女であると考えるのが自然でしょう。
これだけだと、「長谷川≒彼女」という、なんのこっちゃな結論になりかねないので、セリフやシーンから裏付けしてみます。
劇中で、三池が似顔絵を描いた人物は、次の人です。
1、公園で般若みたいな絵を描かれて、怒った客
2、公園で傑作だと笑って、チップをくれた客(長野)
3、彼女
他にも、会社の経営が上手くいくようになった人や、キミのおかげだ!と言って、札束を渡した人がいますが、ちょい役なのでここでは割愛。
三池が描いた似顔絵を見て、彼女は三池の元を去ったと、三池・彼女双方から語られてるので、事実で間違いありません。
ただ、1・2の人物は、長谷川の創作の小説に出てくるので、事実かどうか分かりません。
『不惑』を歌った後の病院にて、三池と由利の会話です。
三池「半年前に近いことがあったが、長谷川とは会ってない。実験に協力してほしいと頼まれたが、相手は由利ではない」
由利「実験に協力を頼んだ画家がいた(が、三池ではない)。画家が実験を断るセリフが一字一句同じ、教授が引用した偉人のセリフが同じ、研究を続ける理由、予算が下りなかったのも事実」
研究室の出来事は、どこが事実でどこが創作なのか判明しますが、公園での出来事は、「半年前に近いことがあった」と三池が言うだけで、一部リアルにあった出来事といっても、どこが事実かハッキリしません。
では、リアルにあった出来事はどこなのか。
後の彼女の手紙から推測できます。
あなた(三池)が描いてくれた似顔絵は、阿修羅の顔をした私だった。同じような絵を描かれて怒って帰った客が、次の日交通事故にあって死んだのをニュースで見た。(要約)
もうお分かりと思います。
「怒って帰った客がいたこと」が、リアルにあった出来事です。
ただ、公園のシーンでは「般若みたいな顔」を描かれて怒った客、彼女の手紙では「阿修羅の顔をした似顔絵」を描かれて怒った客、と微妙に表現が違います。
般若=阿修羅=恐ろしい顔!繋がった!思って画像検索したら、阿修羅は全然怖そうな顔じゃなかった。
正直、根拠にするには弱いと思いましたが、般若のような顔・阿修羅のような顔で検索したら、どちらも「恐ろしい顔」という意味なので、共通してる言ってもいいでしょう。
長谷川は、三池が描いた彼女の似顔絵を実際に見てない思うし、私のような思い込みもあるかもしれないし、そもそも公園のシーンは長谷川の創作だから、ここはさらっと流してください。
重要なのは般若とか阿修羅ではなくて、「怒って帰った客がいた」こと。
三池の言う「半年前に近いことがあった」出来事は、「怒って帰った客がいた」ことです。
三池 と 怒って帰った客。
さらにリアルでは、ここにもう一人登場人物がいます。
彼女です。
彼女の手紙から分かる通り、彼女は怒って帰った客を目撃しています。ジャズバーで三池が「俺が似顔絵を描くところを、彼女がずっと見ていた(要約)」と言ってたので、間違いありません。
そして、公園のシーン。ここは、長谷川の創作です。
三池 と 怒って帰った客。
さらに、もう一人登場人物がいます。
そう、長谷川です。
リアルで、三池と怒って帰った客を、彼女は見ていた。
小説で、三池と怒って帰った客を、長谷川は見てる。
三池と怒って帰った客を、見ている構図が同じです。
偶然でしょうか。
初見の時、「もしかしたら、長谷川≒彼女なのかもしれない。記憶なのか、集団無意識なのか、構造は分からないけど、彼女と長谷川がダブる場面がある」と思いました。
長谷川≒彼女を感じる部分は、他のシーンにもあります。
謎の空間から脱出し、長谷川の病室での会話です。
長谷川「長い夢を見ていた気がする」
三池「奇遇だな。俺も長い夢を見ていた」
由利「あれは、夢だ。夢かもしくは、集団催眠にかかったのだろう」
長谷川「なんで二人は、僕の夢の内容を知ってるの?自分のことはよく分からないのに、二人のことはよく知ってる気がする」(要約)
自分のことはよく分からないのに、二人のことはよく知ってる気がする。
なぜ、長谷川は自分のことはよく分からないのに、三池と由利のことは、よく知っている気がするのか。
「よく知ってる」ではなく、「よく知ってる気がする」なので、夢の内容は覚えていても、三池と由利を認識していたかと言えば、あまりそういう感じではありませんでした。
長谷川が彼女と同じ立場にいたことは、先ほど書いた通り。これは仮説ですが、少なくとも「公園で怒って帰った客」を見ている時だけは、「長谷川≒彼女」です。
長谷川の自己が薄くなっている中、「長谷川≒彼女」であれば、「よく知ってる気がする」と言った理由も推測できます。
彼女は、由利の妹であり、高校時代から三池のことがずっと好きで、短い間でも愛し合うことができた恋人です。だから「二人のことをよく知ってる気がする」と、考えることもできます。
最初は、謎の空間の出来事をぼんやりでも共有してるから、うっすら覚えてるのかなぁと思ったり、元々二人は、長谷川のお見舞いによく来ていたことを、三池・由利と認識できてなくても覚えてるんじゃないか、と思ったりしました。
また、長谷川が彼女の手紙を代筆するにあたって、三池や由利のことを聞いてたから、その記憶とごちゃ混ぜになってしまっただけなのかもしれない、とも考えました。手紙代筆する際に、「個人的な事情に立ち入ることもある」と言ってたし。
でも「長谷川≒彼女」であれば、間違いなく二人のことを、よく知ってるんですよね。だって由利は兄だし、三池は高校時代から、ずっと好意を抱いてる人なのだから。
長谷川と彼女の記憶が入り混じっただけなのか、長谷川≒彼女であるのか。
どちらがより、三池と由利に関することを知ってるかと言えば、断然後者の方です。
最初に戻ります。
「君に描いてもらうのは、初めてじゃない気がする。でもあれは、僕じゃなかったね」
Q.僕じゃないなら誰? という問いには、
A.彼女 となります。
一通り説明は出来ました。「長谷川≒彼女」の仮説も、一応裏付けできたでしょうか。
長谷川の自我
「君に描いてもらうのは、初めてじゃない気がする。でもあれは、僕じゃなかったね」
長谷川は、三池に描いてもらうのは、初めてじゃないと言いつつ、「前に描いてもらった人」は、「僕ではない」としっかり区別してます。
これを記号で表すと、前半は 長谷川≒彼女 であり、後半は 彼女≠長谷川 となります。
さらに、長谷川は自分のことを分かってないことを踏まえて、これを長谷川視点にすると、前半は 僕≒描いてもらった人 、後半は 描いてもらった人≠僕(僕=長谷川と認識してない)となります。
ここでは「描いてもらった人は、僕であり、僕ではない」と分かってるだけで、「僕」が何者なのか分かってません。
「僕」が明確になるのは、三池の描いた似顔絵を見て言った、長谷川の言葉。
「これは、僕だ」
最後の最後に、長谷川は「僕」を認識することができた。僕=長谷川なのかもしれないし、僕=三池の描いた絵なのかもしれないし、なんにせよ、長谷川は自己や自我を認識できたのだと思います。
長谷川と彼女の共通点
「君に描いてもらうのは、初めてじゃない気がする。でもあれは、僕じゃなかったね」というセリフの真意を解明しようとしたら、「長谷川≒彼女」を証明しないといけなくなりました。
今回は、長谷川と彼女の立場から証明しようとしましたが、元々共通点が多いです。誰かに好意を抱いてたこと、手紙を書いたけど出せずに終わったこと、真意を手紙に託したこと。そして、重い病気になったこと。
さらに、長谷川も彼女も、三池・由利からの承認によって、存在している点も同じです。
長谷川は、自分のことが分からないから、三池や由利に「君は長谷川だよ」と言われて認識できるし、彼女はキャストがいないから、彼女がどんな人でどんなことを言ったのか語られることによって、実態がなくても私たちは認識することができます。
記憶とメモが頼りなので、間違ってたらこっそり教えて下さい…私はもう答え合わせができないので。
まだまだ続くよ
さーて、次回のブログは?
「伏線、こんなところにも!?」
「Change Your Distiny -未来は変えられたのか-」
「長野博、ホルンと和解」
の3本です。続きも見てくださいね!
ジャン、ケン、ポン!うふふ
※予定内容を変更してすることもあります。ご承知下さい。
レポの続き
▶TTT『戸惑いの惑星』 運命は、自分の選択によってつくられている
【追記】2018.2.19
DVDを見たら、彼女=長谷川説のニュアンスが変わってしまったので、訂正しております。